プロジャグラーの仕事 概論的に

第6回 プロジャグラーの仕事 大道芸

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今回から数回に渡り、「プロジャグラー」の仕事を、個別に検討して行きましょう。

初回は「大道芸」です。

現在「大道芸」という言葉は多義に使われていますが、今回は狭義の「大道芸」、つまり、「クライアントがおらず、投げ銭のみを収入源として、自主的に路上でパフォーマンスを行う」ことを扱います。



さて。 「芸能」が観られる場所、というとどこを思い浮かべますか。 まず思い浮かぶのは、劇場やライブハウス、TVなどのマスメディア、そして、ウェブ上といったところでしょうか。大道芸に馴染みのある方なら、公園や歩行者天国、駅前などを挙げるかもしれません。



芸能のはじまりは神事と切り離せません。

大道芸の様子大道芸の様子

節目の祝いに欠かせないものとして芸能がありました。芸能を生業とする者は、祝いをする為に各地を巡業し、芸能を披露してきました。都市が発達するにつれ、そのような芸能が日常に染み出てくるようになります。

そのときにどこで芸を披露するか。どこの都市にでもあるもの、それは辻、つまり路上です。ひととひとが交わるところに大道芸が発生します。

劇場での興行がはじまるのは、もっと先の話。芸能の原点は大道芸にあります。




大道芸の特徴は何でしょうか。
路上を行き交うひとの注目を集め、止め、人垣をつくる。

そのためには、人目を引くビジュアルや動き、期待を持たせるわかりやすい展開、そして、みていて気持ちよく納得する芸が必要になります。

観客の集中を乱すものがあちこちにある路上では、複雑な筋立てのある芸能よりも、単純にわかりやすくたのしめる芸が多くなります。

逆に言うと、曲芸においては、移り気な観客を引き止めるためにより刺激が必要になり、より大きな仕掛けを求め、その結果複雑な筋のある芸能もうまれ、必然的に小屋掛けの芸能がうまれてくることになりますが、それはさておき。




前置きが長くなりました。
このような歴史の話から入ったのは、現在においても、ジャグラーとしてキャリアをはじめるのに、ハードルが低いのは大道芸であるからです。
はじめるのにあたり、ハードルが低い。それは大道芸の魅力のひとつではあります。

実際、日本において大道芸をスタートにしてキャリアをスタートするプロジャグラーが多いのは事実です。

余談ですが、今や世界有数のサーカスカンパニーである「シルク・ド・ソレイユ」も、はじまりは大道芸人の集団でした。

もっともはじめるハードルが低いことと、芸能として大道芸を成立させることの難易度はまた別の話ですが。




ところで、大道芸はどのような場所で行われているでしょうか。列挙してみましょう。

・歩行者天国などの公道にてショーをする。
※無許可で公道を占有することは法に触れます。合法的に路上を使用する場合には、道路使用許可を得る必要があります。
・施設(商業施設、公園等)管理者に許可をもらい、ショーをする。
・自治体等が発行するパフォーマンスライセンスを取得する。
・大道芸フェスティバルに出演する。


■歩行者天国
かつて歩行者天国は、文化の発信地でした。
しかし、取締もきつくなり、いまや文化発信地としての歩行者天国はほぼ消失しております。
今「大道芸人」として確固たる地位を築いている方々には、歩行者天国で名を馳せた方も多いです。そして、現在の厳しい状況の中でも歩行者天国や駅前を舞台にして、ショーを磨いている方々がいるのも事実です。


■商業施設
最近はたくさんの店舗が入ったショッピングモールも増えてきています。
そのような場所では、無料でパフォーマーにイベントスペースを開放しているところもありますので、お近くの商業施設に問合せをしてみるのはよいかもしれません。


■パフォーマンスライセンス
パフォーマンスライセンスは、現在、いくつもありますが、大きな注目を集めたものは、東京都が発行する「ヘブンアーティスト」でしょう。このライセンスは、ライセンスを得たパフォーマーが、東京都の施設を中心に予約制でパフォーマンスができるようにするものです。現在は年に一回秋頃に、新規ライセンス取得希望者のためのオーディションが行われています。(実際の募集状況は、ヘブンアーティストの公式サイトをご確認ください。)


■大道芸フェスティバル
大道芸人がたくさんあつまり、まちを盛り上げる大道芸フェスティバル。
フェスティバルによって、色や性格はまちまちです。出演者の選考にあたり、公募をするものもあるし、プロデューサーによってブッキングがされるものもあります。気になるフェスティバルがあったら、まずは主催者に連絡してみるのがよいでしょう。

大道芸フェスティバルは、地域に密着して行われます。そんな中、地域活性化のコンテンツとして、大道芸が注目を集める流れがあります。地域のバックアップにより、定期的に大道芸を行えるような場所もあります。
その中で今個人的に注目しているのは浅草。
日本有数の観光地でありますが、ここの商店街のひとつでは「浅草大道芸」として、毎週末を中心に、大道芸人に場所が開放されています。運営は大道芸人により行われ、新しい大道芸のムーヴメントの芽を感じます。




大道芸を行うという事は、つきつめると、その場所とコミットすることでもあります。
コミットを深めて、新しいものを生み出して行く流れができたら、パフォーマーにとっても、地域にとっても、そして、そこを訪れるひとにとってもとてもハッピィなことではないでしょうか。

地域社会と密接に関わる形で「大道芸」が発展して行く。そんな未来を想像すると、これからの発展にワクワクします。
これから「大道芸」を行う方々には「地域」があっての活動であることを頭の片隅に置いてほしいです。

大道芸シーンの盛り上がりを反映するかのように、国内には「大道芸人」を職業とする方が増えています。




しかし、実際に投げ銭のみを収入源にしている方はごくわずかでしょう。
イベントが行われるときに、出演のオファーをもらい、出演料をいただき、大道芸あるいはステージショーを行う。イベント出演、というのが「大道芸人」のひとつの道になります。このような「イベント出演」に関しては、次回、改めてご紹介します。




最後にひとつ。

現在、面白いのは、メディアが発達した結果まわりまわって、路上から面白い芸能、カルチャーがうまれてきているところです。従来のマスメディア主導の世界では注目を浴びなかったものが、動画投稿サイトなどにより情報発信がフラットになった結果、大きな注目を浴びることになっています。

面白ければ大きな注目を集め、面白くなければ相手にされない。
そう考えるとウェブというのは、現在の「大道」なのかな、とふと思ったりします。

歴史を振り返ると、大道芸から芸能が育ってきました。あたらしい「大道」で、どのような交流がうまれ、どんなワクワクする芸能がうまれて行くのか、とてもたのしみであるとともに、そんな中で自分もワクワクすることをして行きたいなと思います。


ハードパンチャーしんのすけ

プロジャグラー。日本のデビルスティックのパイオニアとして、エンターテイナー、インストラクター、
プロデューサーとして、日本全国で活動中。
  • 【受賞歴】
    アクア大道芸フェスティバルふれあい賞(2002)
    日テレArtDaidogeiグランプリ優秀アーティスト賞(2004)
  • 【活動】
    ジャグリング講師---関東にて6教室展開中。
    ジャグリングイベントプロデューサー---現在は月に一回のライブ公演「門仲ジャグリングナイト」主催。
    被災地応援パフォーマンス団 代表---東日本大震災被災者に「パフォーマンスで笑顔を届けよう!」と
    プロジェクトを立ち上げました。 http://playforjapan.info
  • 【出版等】
    教則本「デビルスティック大全」
    DVD「FantasticDevilstick」
  • 【メディア出演・掲載】
    フジテレビ「笑っていいとも!」(2005)日本テレビ「赤鼻のセンセイ」(2009)NHK「極める!」(2010)
    読売テレビ「教育ルネサンス~東大解剖」(2007)サンデー毎日(2009)FRIDAY(2009)
    DVD『LICENSE vol.TALK SHINAGAWA』特典映像出演(2011)
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