最近、とても面白い本を読みました。
「ファウンデーションズ」(エバーハード・リーゼ著 田代茂訳 株式会社リアライズ・ユア・マジック スクリプト・マヌーヴァ)。
マジシャンのために書かれた演技の作り方を指南する著作ですが、マジックのネタを紹介するのではなく、ショーをつくる、ということに専らフォーカスをあてているので、ジャグラーも学ぶべきだな、と感じることがぎっしりと詰まっていました。
同じくスクリプト・マヌーヴァによって発行された「オーディエンス・マネージメント」(ゲイ・ユンバーグ著 米津健一訳 滝沢敦監修 株式会社リアライズ・ユア・マジック スクリプト・マヌーヴァ)とあわせて読むと、ショーをつくり、舞台にかける上での知識はかなり充実するのではないでしょうか。
私がまだプロジャグラーになる!と決心して間もない頃のことですが、とある大先輩から心に残る言葉をききました。
「ステージで成立する芸は大道芸でも通用するけれど、大道芸で通用するからと言ってステージで成立する訳ではない。」
・・・という訳で、今回のコラムは、先に挙げた2冊を読んでね、という話で終了しかねないのですが、10年以上パフォーマーとして生活してきて、大先輩の言葉が正しいと思いつつ、「大道芸」という環境でこその固有のポイントもあると感じますので、やや細かいところに突っ込む感じになりますが、大道芸で気をつけたい、と私が思っていることをいくつか挙げたいと思います。
◆路上は「みんな」の場です。
路上で演技をする、ということは、いろんな方が共にいる、オープンなスペースを使うということです。まわりのひと、例えば露店であったり、近くにあるお店であったりなど、先に「営業」している方々にきちんとあいさつをしましょう。それは、例えばヘブンアーティストのように許可を得ているような場所でも同様です。「路上」というのは、だれのためのものでもない、みんなのものです。お互いが気持ちよい存在となるようにすることが「大道芸」を育てることにつながります。
◆演技スペースと客席との境界を明確にしよう
大道芸をみていると、だいたいの場合、演技スペースを確保するためにロープを張るなどして境界を明確にしていることに気付くでしょう。これ、すごく大切です。ひとつには、ジャグリングでは特にそうなのですが、安全確保のため。そして、もう一つは観客との一体感をつくるため。ここまで来て欲しい、という意思表示であり、それを明確にすることでお客様も行動を起こしやすくなります。
実は、自然な観客の集まりが欲しくて、私は境界を定めずに大道芸をしていた時期があります。私の芸の技量の問題もあるでしょうが、境界がないと確実にお客様の密度が下がりました。以来、ロープで演技スペースを確保するのは大切だな、と痛感している次第であります。
◆観客をつくるためのネタを用意しよう。
ステージとの一番の違いは、ここではないかと、と。ステージでは、基本的には、客席にお客様が待っていて、何が始まるのか、という期待と共に迎えられます。そのため、すっと自信のある演技をズバッと!提案することが大切です。一方、大道芸の場合、誰もいないところから始めなければなりません。そのために「自信のある演技」ということに加えて、アイキャッチなことをするのも大切です。何か気になる存在、思わず立ち止まらずにはいられないインパクトを与える。すべてはそこからです。
◆客席をつくろう 寄せること
遠巻きにでも通行人が留められたら、あとは興味をひかせないこと。そして、機を見て観客を近くに、すなわち設定した境界ギリギリまで寄せる。よくみるのは、遠くからでは見難い小さなネタを行うことですね。「小さいネタ」を行う事で、お客様が近寄る理由を与えてあげるのです。お客様が行動を起こすハードルを下げる。しかし、それは方法のひとつで、実際にはお客様との心の距離を縮めているか、ということで、しっかりと心をつかんでいたら、お客様は躊躇なく前に来るでしょう。そのために、この頭の部分はかなり力を注ぐべき、大切なところです。
またショーの途中でも、折りをみて前に詰めてもらう、場合によっては腰を下ろしてもらうなどの整理を行うことで、観客の数は大きく変わってきます。
◆観客、環境とを利用する
「大道芸」というのはなんだろう、と考えると、用意された観客を前にして行うのではなく、自分で観客をつくって行く事にあります。言うなれば、お客様にとって大道芸との出会いはハプニング。また目の前で起きている事が、お客様にとってどのように見えるのかも、その日の天気や場所の環境によって大きく変わります。そのような状況をめいっぱい楽しむのが大道芸にあって、ステージとは異なることではないでしょうか。
ジャグリングパフォーマーとしてのスタート地点は、今でも大道芸であることが多いのではないかと思います。自分がどこを目指して「大道芸」をスタート地点にするのか。それによって芸の個性は変わってくるでしょう。
この世界の路上で生きる!と思う人もいるでしょうし、あるいは、大道芸はステージへの通過点!と考えている人もいるかもしれません。
いずれにしても、自分が今どこを目指しているのかを忘れずに、その上で「路上」というスペシャルな「劇場」でのショーを楽しんでいけたら、と私は思います。
ハードパンチャーしんのすけ
プロジャグラー。日本のデビルスティックのパイオニアとして、エンターテイナー、インストラクター、